拡大を続けるEC市場の動向と注目点

4 越境ECの状況

現状、メディアで目を引く規模の数字が出ているのは、中国からの爆買いである。アリババが運営する、中国の消費者が国境を越えて海外企業の商品を購入できる「天猫国際」というプラットフォームでも、その爆買いは行われている。

天猫国際では、11月11日は「独身の日」と呼ばれる、国民行事レベルの安売りセールだ。天猫国際に出店している日本企業でもっとも売り上げた、ドラッグストアのキリン堂は、その日1日で4億5,000万円を、ミキハウスは2015年8月末に出店し、わずか2カ月半で2億6,000万円を売り上げている。まさに「爆買い」の表現がふさわしい。

こうした成功企業は、アリババの運用代行など天猫国際出店支援サービスを利用しているようである。現状、出店要望が多数出ており、なかなか気軽に出店もできないようだが、出店できたとしても、天猫国際上にぽんとサイトをオープンしただけでは、売れない(EC事業者なら当たり前と思うだろうが)。

キリン堂でも2回めの「独身の日」であるから、まだノウハウが溜まっていないのは仕方ないかもしれないが、運営代行でまるきりアリババにあずけてしまうとなると、将来性のあるビジネスだとは言い難い。ただ現状は、在庫さえ確保できれば、「独身の日」1日で数億円の売上が立つという、すごいビジネスだとは言える。

国内のプラットフォームでは、楽天が提供する「楽天グローバル」がある。それを利用した「北海道お土産探検隊」が、2014年には越境EC売上1億円を突破、ショップ・オブ・ザ・イヤーで海外販売賞を受賞した。こちらは、楽天市場に登録してある情報を自動翻訳する形なので、出店側に手間がない。

同様の仕組みで、tensoが提供する、Yahoo!ショッピングもしくはヤフオク!に出店していれば、その商品情報を自動翻訳してくれる「Buyee」というサービスもある。手軽に始めるには、自動翻訳や代理購入の仕組みを使うのがいいだろう。

独自ドメイン用のカートASPでも、越境ECに対応しているサービスはあるが、まだ目立った事例は出てきていない。大手ITベンダーからは、多言語・多通貨に対応したサイトが作れる「グローバルEC」のプラットフォームが出てきており、グローバル展開している企業は、着々と導入しているようだ。

関税の問題などハードルもいくつかあるが、今後も国境を超えたECでの購入は増えていくだろう。モノによっては、3Dプリンタで実際にモノが動かなくてもいい未来も来るかもしれない。

5 今後の注目点や決済とのかかわり

●スマートフォンとEC

今後、スマートフォンからのネットショッピングはさらに増えていくだろう。その際に、EC事業者の課題となるのは、「流入」と「ユーザビリティ」だ。どちらも「正解」は見えず、時代の流れとともに変化し続けるだろう。

ユーザビリティに関して、明確に解決すべき課題の1つが、個人情報の入力である。複数のサイトで複雑なパスワードを使い分ける、クレジットカードの16桁を入力するというのは、PC以上にハードルが高い。よって、「Amazonログイン&ペイメント」のようなID決済や、指紋認証のようなサービスが今後ますます求められていくだろう。

●ECサイトで購入しない?

スマートフォンへの流入の1つとして、ソーシャルメディアやキュレーションメディアが一定の割合を占めているはずだが、「ソーシャルコマース」「メディアコマース」のようにメディアにそのままカートがつくという発想も、機能的には実現可能になっている。

すでに運営されているメディアコマースをいくつか見てみると、メディアがきちんと在庫を持って行う場合は別として、ただリンクを貼ってECに誘導するパターンは、在庫切れ、ページが無効となっているサイトがいくつか見受けられる。物販はモノが動かせなければ成立しない。まずはサービスECやデジタルコンテンツで、新しいコマースが進んでいくのかもしれない。

●パソコン/スマホ不要のEC

ソーシャルコマース、メディアコマースは、ECサイトに遷移せずとも購入できるわけだが、パソコンやスマホなど、インターネット専用デバイスに接続せずとも買えるという未来もある。

たとえばAmazonの「Dash Button」は、洗剤などがなくなりそうになったらそのボタンを押すと、新品が届く仕組みだ。IoTと言われる分野が発達して、車や家電など、インターネットがつながるすべてのマシンから、ショッピングができる未来はすでに見えている。その際は、ワンクリック決済のように、事前に個人情報を登録しておく、もしくはすでに登録しているIDで購入できなくては、利便性はがくんと落ちる。

●まとめ

以上、さまざまな視点から「ネット通販、eコマースサイトの最新動向」を見てきたわけだが、大きな視点で見れば「不便をテクノロジーで解消する」段階に留まっていると言えよう。Amazonの圧倒的な利便性の提供は、驚きや感動をもたらしてはいるのだが。

最新テクノロジーを逃さず、その段階での最先端のサービスを提供することも重要である。加えて、すべてのインフラが当たり前に便利に整った時に、自社のECが何を提供するのかが問われるはずだ。多くのビジネスマンが気づいているとおり、それは今でも突きつけられている課題ではあるのだが、その時に備えてぜひ、準備を怠らないようにしていただきたい。

出典・引用元
※1 経済産業省 平成26年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)
http://www.meti.go.jp/ress/2015/05/20150529001/20150529001-3.pdf
※2 一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム 2014年モバイルコンテンツ関連市場規模
https://www.mcf.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2013/10/mobilecontent_market_scale2014.pdf

※3 日流ウェブ 【ネット通販売上高調査】 増収企業目立つ/505社合計は3兆2800億円 http://www.bci.co.jp/netkeizai/article/782
※4 通販新聞 月刊ネット販売調べ 2014年度のネット販売市場、主要300社で2兆9380億円 http://www.tsuhanshinbun.com/archive/2015/10/20143009380.html
※5 2015年1-11月「通信販売・訪問販売小売業」の倒産状況 : 東京商工リサーチ
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20151222_02.html
※6 http://eczine.jp/news/detail/1889
※7 楽天株式会社: 決算短信・説明会資料 2014年 | IR資料
http://corp.rakuten.co.jp/investors/documents/results/2014.html
※8 決算説明会資料 – IRアーカイブス – IR情報 – ヤフー株式会社
http://ir.yahoo.co.jp/jp/archives/present/
※9 サンヨー・アイストア「お取り寄せ購入機能」を構築 | NTTデータ
http://www.nttdata.com/jp/ja/news/services_info/2014/2014041501.html

カード決済&セキュリティの強化書より
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