ポイント業界の最新地図

2016年5月12日7:41

2012年6月19日 - Yahoo!ポイントが廃止され、Tポイントに統合されるという衝撃的な発表があった。この発表直後からポイント業界は再編が始まり、さまざまな業界を巻き込んだ争いが開始した。積乱雲が巨大化し、スーパーセルへと変化したような状態といえばわかりやすいだろうか。さらにスーパーセルは各地で観測され、同時に8つも存在している状態が現在のポイント業界なのである。本稿では、この動きの激しいポイント業界をわかりやすく解説し、今後スーパーセルになる可能性のある積乱雲についても紹介していきたい。

株式会社ポイ探 代表取締役 菊地 崇仁

最新のポイント・マイルマップ

最初にポイント業界のスーパーセルである主要8陣営を紹介しよう。これにあたっては、Yahoo!ポイントとTポイントの統合以降の動きを見ていく必要がある。

■2013年

ヤフーがTポイントと提携したのは、単独ではライバルの楽天に勝ち目がないと判断したからだろう。共通ポイント最大手のTポイントと組み、オンラインNo.1を目指すことになる。この発表後、最初に動いたのは楽天だ。楽天は楽天スーパーポイントを共通ポイント化すると2013年3月に発表した。

楽天市場、楽天トラベル等のサービスに加え、楽天カードでお得をアピールする楽天モデルを開始したのがリクルートライフスタイルだ。4月にはオンラインショッピングモール「ポンパレモール」を開始し、5月に「リクルートカード」を発行。ポンパレモールのポイント還元率は3%、旅行サイトじゃらんの還元率は2%、年会費無料のリクルートカードでも還元率が1.2%、年会費2,000円(税抜)のリクルートカードプラスは2%と圧倒的なポイント還元で楽天、ヤフーの追い上げを開始した。

7月、Yahoo!ポイントが廃止されTポイントに完全統合。オフラインとオンラインのポイントが共通化し、初めてスーパーセルが誕生した瞬間だ。

■2014年

2014年に動いた業種はケータイキャリアだ。最初に仕掛けたのはKDDI。2014年2月に「au WALLET構想」を発表し、自社サービス内でしか利用できなかったポイントを、au WALLETプリペイドカードにチャージすることにより、世界中のMasterCard加盟店で利用できるサービスを開始するとした。これにすぐに反応したのがソフトバンク。3月に、ソフトバンクの利用で貯まるポイントをTポイントに切り替えると発表した。5月にau WALLETが開始し、7月にはソフトバンクのポイントがTポイントに切り替えられた。

ここで大きく出遅れたのがロイヤリティ マーケティング(Ponta)とドコモとなる。一足先に動いたのがPontaポイントだ。オフラインとオンラインの統合に遅れをとっていたPontaと提携したのはリクルートポイント。圧倒的なポイント還元で猛追を図ろうとしたリクルートポイントだが、利用者がついてこなかった。使いにくいポイントを貯める人はいなかったのだ。ネットに弱いPontaポイント、ポイントの使い勝手が悪いリクルートポイントが提携するのは必然の流れだったが、7月末からはPontaポイントとリクルートポイントの相互交換を開始。さらに2015年には、リクルートポイントを廃止しPontaポイントに統合すると発表した。楽天は、共通ポイントサービス「楽天ポイントカード(旧Rポイントカード)」を10月から開始し、同月末にはMVNOでケータイビジネスに参入した。

2014年は楽天スーパーポイント、Pontaポイント(リクルートポイント含む)、WALLETポイントという複数のスーパーセルが誕生した年と言えるだろう。

■2015年

2015年1月、鳥取ガスが利用料金で貯まったポイント「Smart Lifeポイント」をWAONポイントに交換できるサービスを開始した。5月、2016年以降、東京電力が利用状況に応じてTポイントまたはPontaポイントを付与すると発表。電力自由化により、今まで交わることのなかった電子マネーのポイントと共通ポイントがライバル関係へと変化したのだ。

ドコモは、5月にドコモポイントを廃止し、共通ポイントサービス「dポイント」を開始すると発表。7月、2016年春以降、JR東日本が駅ビルのポイントプログラムをJRE POINTとして統合し、将来的にSuicaポイント、ビューサンクスポイントも統合すると発表した。

11月下旬にはリクルートポイントとPontaポイントの統合が開始。12月からdポイントが開始し、ドコモの利用料金でためたポイントをローソンなどで利用できるようになった。同月中旬より、ローソンでWAON決済が可能になり、コンビニでのnanacoとWAONの全面対決が始まった。

駆け足で3年間の流れを説明してきた。主要8陣営とはTポイント、Pontaポイント、楽天スーパーポイント、dポイントの共通ポイント陣営に加え、電子マネーのWALLETポイント、nanacoポイント、WAONポイント、JRE POINTを指す。2016年はこれらのポイントプログラムがポイント業界を牽引することになるため、注目しておいたほうがよいだろう。

 

ポイント、電子マネー注目の8陣営+α

次に、将来的にスーパーセルになる可能性のあるポイントプログラムを紹介しよう。注目すべき積乱雲は2つある。Amazonポイントとソニーポイントだ。

■Amazonポイント

まず、Amazonポイントについて紹介しよう。つい最近までAmazonポイントが貯まることすら知らなかった人も多いだろう。しかし、Amazonポイントが開始されたのは2007年2月だ。2007年というとPASMO、nanaco、WAONが開始した「電子マネー元年」となる。現在、PASMOやnanaco、WAONを知らない人は少ないだろう。それらと同時期からあるAmazonポイントがどれだけ活用されていなかったかを理解するのは難しくない。

このAmazonポイントに動きがあったのは2014年8月だ。Amazonポイントをマーケットプレイス商品の購入時にも利用できるように変更した。さらに、Amazonサイトのヘッダ部分にAmazonポイント残高を表示し始めた。

意外なところからもAmazonがポイントに力を入れていることが判明する。2014年末、Amazonポイントに関する求人が出ているという情報を入手した。つまり、Amazonポイントをヘッダ部分に表示したのは序章に過ぎず、本格的にAmazonポイントを活用し始めるということだろう。

2015年5月頃からはKindleの対象書籍の購入時にポイント最大50%還元など、大幅にポイントバックするキャンペーンを実施。現在はランキング上位の書籍でも1%~3%程度のポイントを獲得できるようになっている。

さらに8月には、Amazonマスターカードの利用で直接Amazonポイントが貯まるようにシステムが変更された。従来は、Amazonマスターカードを利用した時に貯まるポイントはAmazonクレジットカードポイントとなり、1000ポイント貯まったら自動的に100円分のAmazonギフト券に交換されるという使い勝手の悪いポイントプログラムだった。しかし、直接Amazonポイントが貯まるようになり、クレジットカードで貯めたポイントの回転率がアップ。

Amazonが本気でAmazonポイントの活用に取り組んでいることがわかるだろう。現時点ではオンラインのみに閉じられたポイントプログラムとなっているAmazonポイントだが、リアルに進出することがあれば一番怖いポイントプログラムとなるはずだ。

■ソニーポイント

次に主軸になる可能性があるのはソニーポイントだ。おそらく、現時点ではソニーポイントは積乱雲でも無く、ただの上昇気流だろう。では、なぜソニーポイントが積乱雲になり、スーパーセルになる可能性があるのだろうか。

ソニーポイントはソニーストアで対象製品を購入したり、クレジットカードのソニーカードを利用することで貯まるポイントだ。貯まったポイントはソニー製品の購入や、ソニー関連のサイトで利用できる。これだけ見れば魅力的なポイントプログラムとはいえないだろう。

ではなぜ、ソニーが8陣営に対抗できそうかと言うと、ソニーは金融サービスに強いためだ。ソニー銀行、ソニー生命があり、ソニーカードも発行している。

最近では、銀行取引でポイントが貯まるサービスを開始しているネット銀行が多い。セブン銀行はnanacoポイント、イオン銀行はWAONポイント、楽天銀行は楽天スーパーポイント、じぶん銀行はWALLETポイント、新生銀行やスルガ銀行Tポイント支店はTポイントとなっている。ローソンも銀行に参入するという噂もあり、その場合はPontaポイントを獲得できるようになるかもしれない。つまり、銀行を保有しているソニーは最初から有利な立場なのだ。

ソニー生命やソニー損保などもあり、すべてのサービスをポイントプラットフォームでつなげば、一気に主役になるポテンシャルを秘めている。しかし、ソニー生命はクレジットカードでの支払いができない、プロバイダのソネットの利用で貯まるポイントはソネットポイントとなるなど、資産を活かしきれていない。ソネットポイントはソニーポイントに交換できるものの、最初から統合したほうが効果的だ。

さすがに、Xperiaを生産しているためケータイビジネスには参入できないと思われるが、ソニーポイントを共通ポイント化すると、十分8陣営に対抗できるのではないかと考えている。

そもそも楽天Edy、WAON、nanaco、Suica等に使われているFeliCaはソニーが開発したものだ。“昔のSONYなら”とは言いたくないが、可能性があるだけに残念でならない。

2016年以降注目の業種・業界

最後に、2016年以降ポイント業界で注目すべき業界・業種を紹介しよう。電力・ガスとコンビニエンスストアの2つが注目株だ。

■電力・ガス

2016年の目玉は4月に開始する電力自由化だ。既存の電力各社はポイントでの囲い込みを開始する。東京電力は2016年1月よりTポイントかPontaポイントを付与する新プランを発表。中部電力は、Webサイトの利用で貯まるカテエネポイントの交換先をWAONポイント、nanacoポイント、ユニコポイントだけでなく、dポイント、えんてつポイント、LuLuCaポイントなどにも拡大。四国電力も「よんでんポイント」を開始し、他社へのポイント交換も検討中だ。中国電力はDuoポイント、電子マネー「ゆめか」へのポイント交換で地域との提携を強化する。

新電力の「ENEOSでんき」はサービスステーションと同様、Tポイントの付与を発表している。また、ANAカード、TS CUBIC CARD、レクサスカード、エポスカードでポイント増量またはマイルアップの提携も開始予定だ。

東京ガスも「パッチョポイント」を開始し、楽天スーパーポイント、WAONポイント、Tポイント、Pontaポイント、dポイントへの交換を発表。楽天は丸紅と提携し、電気料金に応じて楽天スーパーポイントが貯まるサービスを検討している。さらにガス自由化を見据えて、クレアールに出資するなど攻撃の手を緩めない。東急パワーサプライはTOKYU CARD会員向けに、TOKYU POINTが最大1%貯まるサービスを発表するなど、既存電力も新電力もポイントが鍵となっている。

■コンビニエンスストア

次に注目すべきはコンビニだろう。共通ポイントといえばコンビニ、コンビニといえばポイントというように、共通ポイントとコンビニは切っても切れない関係だ。

2015年はファミリーマートとサークルKサンクスの統合が話題となり、ファミリーマートがココストアを吸収するなど、コンビニ業界は大きく動いた。

ファミリーマートとサークルKサンクスが統合することで、コンビニ業界の順位が変わり、1位がセブン-イレブン、2位がファミリーマート(+サークルKサンクス)、3位がローソンと、ファミリーマートが上昇し、ローソンは転落となる。

3位転落が確実となったローソンが取った行動はドコモとの提携だ。ローソンではPontaカードを提示するとPontaポイントを貯めるサービスを行っていたが、2015年12月からドコモのdポイントカードでもポイントを貯められるサービスを開始した。同月からイオンの電子マネーWAONでも決済できるようにするなど、5,400万人のドコモユーザーとWAONを利用する主婦層を取り込む戦略だ。

ファミリーマートとサークルKサンクスが統合した場合、ファミリーマートブランドに統一される。この場合、Tカードと楽天ポイントカードが併用可能になるかどうかだが、ファミリーマートはTポイント・ジャパンに出資しているため、現実的には現在のサークルKサンクスはTカードのみになり、楽天ポイントカードは利用できなくなるのではないだろうか。

コンビニ=共通ポイントカードのため、コンビニがなくなる楽天ポイントカードは魅力がなくなり、共通ポイントとしては“負け”となるだろう。この負けを取り返す方法としては、他のコンビニに乗り換えるしかない。3位転落のローソンで楽天ポイントカードが利用できるようになるというのが、一番可能性が高いのではないだろうか。

従来は”おまけ”程度の存在でしか無かったポイントプログラムだが、今や企業の存続に影響をおよぼすくらいの存在となっている。2016年は、電力・ガス、コンビニの動向に注意し、主要8陣営の動きに注目したい。

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