ペイメントカード決済に関する法律と FinTech事業者が注意したいポイント

一口に、「カード決済」に使うペイメントカードといっても、世界中で使えるユニバーサル型、国内汎用型、自家発行型という利用範囲についての区分があり、決済の時期による前払い型、即時払い型、後払い型に分かれる。また、最近は、決済時点でカードの現物を必要とせず、カード情報を使用するカードレス型もある。本稿では、汎用型のペイメントカード(以下単に「カード」という)を中心に、決済を巡ってどのような国内法での規制が存在し、カード発行をはじめ、その取扱いに関連する当事者がどのような点に留意すべきかの概略を解説する。

現代ビジネス法研究所 代表 博士(法学) 吉元利行

1.ペイメントカード決済に関する法律の全体像

「カード決済」を「カード」を媒体とする決済ととらえれば、J-Debitカード、ブランドデビットカード、クレジットカードから、前払い式の電子マネーを含むプリペイドカード、決済にも利用できるポイントカードまで範囲は極めて広い。そのカードも、プラスチックカードが中心であるが、紙製の場合やカードを発行せずに、カード番号などの記号番号のみをスマートフォンのアプリやICチップにデータとして保存されている場合もある。

これらの決済手段を利用者の支出の時期と決済の種類ごとに分類し、適用される法律関係を示したのが次の(図表1)である。

なお、前払いには、プリペイドカード機能に、資金移動機能を加え、外貨でも決済ができるマネパカードのように、金融商品取引法の適用がある金融先物取引事業者の発行するカードがある。

(図表1)決済手段と適用される法律関係

2.カード決済に関する主要な法律の規制

(1)クレジットカード取引の規制対象
①登録

クレジットカード取引において、割賦販売法では、制定初期はクーポンやチケット、クレジットカードなど分割で後払い可能な証票を発行する会社をその規制の対象としていた。また、その規制対象は、二月以上の期間、かつ、3回払い以上の後払いを行う場合に限られてきた。

しかし、最新の改正を踏まえると割賦販売法の適用を受ける包括信用購入あっせんに関係する事業者の範囲、適用される後払い取引が(図表2)のように大幅に拡大している。

(図表2)割賦販売法の適用を受ける包括信用購入あっせんに関係する事業者の範囲

分割払いやリボルビング返済ができるクレジットカードを発行するためには、割賦販売法の規制対象となり、経済産業省に包括信用購入あっせんの登録の申請を行い、認められなければならない。2千万円以上の資本金、財務健全性、クレジットカード業務の公正かつ的確な実施を適切に履行するための十分な社内規則を定めることなどが要件となっており、法令遵守のための社内規則やマニュアル、個人情報保護の適切な管理体制、利用者の苦情処理、加盟店調査義務の履行体制などを備えておく必要がある。

後払いできるカード、もしくは、番号や記号等の情報を消費者に交付・提供しておき、その提示・通知等により、特定の販売店等から商品等を購入できるようにし、あらかじめ定められた時期に、その代金等に相当する額、または、一定の算式に基づいて算出された金額を受領する業務を行う場合には、従来は「包括信用購入あっせん」に該当する事業者のみが登録が必要であり、書面交付等の義務や民事ルールの適用の対象となっていた。規制の対象となるのは、後払いの方法が分割払いやリボルビング払いだけでなく、ボーナス一括、二括払い、二月を超える一回払いが割賦販売法の全面適用を受ける。また、二月以内の後払い(例えば、5日後の返済でも)は、「二月払購入あっせん」に該当し、「クレジットカード番号等取扱業者」と「クレジットカード等購入あっせん事業者」としての義務を履行しなければならない。カード等の券面を使用せず、顧客識別情報でEC取引の決済を行ったり、スマートフォンアプリに登録された情報を利用した決済を行う場合も同様である。

②業務規制

包括信用購入あっせん業者には、「カード交付時」、「取引時」、「請求時」に書面交付等の義務が課せられている。また、クーリングオフや支払い停止の抗弁権など民事ルールの適用があり、利用者の保護が図られている。さらに、カード取引の健全な発展と利用者保護のため、クレジットカード取引の安全性を高めるための体制整備や加盟店調査義務などが定められている。

次に、クレジットカード会社に加え、クレジットカード会社のために、加盟店契約を行う決済代行会社(PSP)業者は、「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」と新たに定義され、登録制の下でクレジットカード取引の安全性を高めるための体制整備や加盟店調査義務など取引の特性に合った義務が課されている。クレジットカードを利用した販売時に、現金販売価格等の法定事項の書面交付の義務のみを課されていた販売店等も、現在では、クレジットカード番号を適切に取り扱うべき義務その他不正利用防止のための義務付けが課されている。

③取引時の確認義務

包括信用購入あっせん業者は、自然人や法人に対して、クレジットカードを交付するに際して、犯罪収益移転防止法の規定により、本人特定事項の確認と取引時の確認項目を確認すること、その記録を保存することなどが義務付けられている。

自然人の場合、氏名・住所・生年月日を原則として運転免許証のような写真付きの公的証明書により確認し【現在は(図表3)記載のように確認方法が拡大された】、取引の目的、職業を書面等により確認する。法人の場合は、名称・本店や主たる事務所の所在地、事業内容を登記事項証明書などで確認し、来店された方の氏名・住居・生年月日等を上記と同様確認したうえ、委任状を徴求し、取引を行う目的と当該法人の議決権保有比率の合計が25%超等の個人の方の氏名・住居・生年月日を確認しなければならない。

④QRコード決済

なお、最近増加しているQRコード決済には、さまざまな形式があり、実質的にクレジットカードで後払いするスキームでは、当該事業者がクレジットカード等購入あっせん業者に、加盟店開拓と契約を担当する事業者は、クレジットカード番号等取扱契約締結事業者に該当することがある。また、あらかじめ登録された個人の情報に紐付けられたメールアドレスや記号・番号等の識別情報に基づいて、特定の取扱事業者から購入した商品やサービスの代金等をキャリア決済(電話料金とあわせて口座引落やカード決済による決済)やコンビニ収納などを利用して後払いをうける方式も、「二月払購入あっせん」として、「クレジットカード等購入あっせん」に該当し、加盟店契約を締結する事業者は、「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」に該当することがあるので、留意する必要がある。

(2)プリペイドカード・ 電子マネーの規制対象
①登録

前払方式のプリペイドカードは、カードなどの証票や電子機器など(以下「カード等」という)に記載(記録)された金額、もしくは数量等に応じた対価をあらかじめ受け取って、カード等を交付等して、商品やサービスの引渡しを受ける取引方法である。プリペイドカードを発行し、加盟店等で商品の購入やサービス代金の決済に利用できるようにするには、「前払式支払手段」として「資金決済に関する法律」に基づく金融庁への登録が必要である。このカード等には、商品券やカタログギフト券のような紙製、磁気ストライプのあるカード型、ICチップ付きのカードだけでなく、情報がサーバに登録され、ICチップやスマートフォン、従来型携帯電話などを使用する方式も該当する。なお、銀行は、銀行法第10条第2項のその他の付随業務として、プリペイドカードや電子マネーの発行に係る業務を実施することが認められている。

②供託等

前払式支払手段の発行事業者(第三者型)は、発行の対価として受け取った額のうち、基準日(毎年3月31日と9月30日)時点で未使用となっている額の半額を原則として供託する義務が課せられている。

一方、銀行などの金融機関が資金を預かる場合は、銀行法に基づく「預金の受入」として、預金保険機構に銀行等が保険料を支払い、銀行が破たんした場合は、1名あたり1,000万円までの預金の払戻しが保証されている。そして、預入期間に応じた利息の支払いがなされている。

しかし、前払式支払手段の発行事業者は、預かり未使用残高に対して、利息を付与することが禁じられている(出資法の「預かり金の禁止」)。したがって、利用額に対してポイントやキャッシュバックができても、未使用額に対しポイントなど利息類似のものを付与することは許されない。

なお、前払式支払手段の発行事業者は、未使用残高の二分の一を供託すると当該金額を自由に利用することも、担保に提供することもできない。そこで、前払式支払手段の発行事業者には、銀行等に手数料を支払って未使用残高相当額の支払いを保証してもらう、または、発行保証金を信託会社に信託して、破たんの場合の発行保証金の還付に備えるなど、資金を有効に活用する方法が認められている。

以上は、第三者型に関する規定であるが、自社、または自社グループ内での利用に限定するとき(自社型)は、カード等を発行し、基準日時点の未使用発行残高が1,000万円に満たない場合は、登録制度もなく、未使用額の供託の必要もない。しかし、基準日の未使用残高が1,000万円を超えれば、その二分の一を供託所に供託するなど、第三者型と同様の対応が必要となる。

③業務規制

前払式支払手段については、原則としてカード券面上に㋐発行者名㋑支払可能金額など㋒有効期限㋓ 問合せ先(住所、連絡先)㋔利用可能な場所㋕利用上の注意㋖残高およびその確認方法㋗約款、説明書などがある場合はその旨を記載する必要がある。しかし、㋓~㋗については、発行者は、資金決済業協会に委託して周知することが可能となっている。

ところで、前払式支払手段として、一旦前払いしたり、発行者の設けるアカウントに入金した後は、法律でその払戻は禁止されている点に注意が必要である。例外的に、当該前払い支払式支払手段の利用できない地域への転勤などのようなやむを得ない場合は払い戻しができるが、上限が定められている。また、発行者が発行の業務を廃止した場合や、第三者型発行者が登録を取り消された場合、残高が残っている場合は、所定の手続きで払い戻しが可能である。

このように払い戻しが制限されていることから、金融庁の登録を受けただけでは、前払いした資金を利用して、他人に送金して、他人がこれを引き出すことも認められない。また、銀行が行う場合を除き、自己の銀行口座に送金して資金を引き出すこともできない。これを行うためには、銀行免許を取得するか、100万円以内の資金移動が可能となる「資金移動業者」としての登録を行う必要がある。

(3)デビットカード取引の法律

銀行が発行するデビットカード取引は、国内、または国外でクレジットカードやプリペイドカードのように代金決済に使えるが、専用の法律はない。銀行が扱う預金業務の一環として、預金を引き出すキャッシュカードと同様と位置付けられている。ATMの代わりに、デビットカード用の端末機を操作し、契約者(預金者)の口座から、決済に必要な資金を引き出し、相手方の口座に即座に資金を振り替えていることになる。

銀行口座を開設する時点で、クレジットカードと同様に、反収法に基づく取引時確認を行わなければならない。

なお、銀行自身がインターネットバンキングやスマホアプリで口座残高情報を確認できたり、他の口座への振込・送金等が可能なサービスを行っているが、これを当該銀行以外の業者が行うには、「銀行代理店」として金融庁に登録が必要になる。ただし、㋐預金者の銀行口座から他の銀行口座への振込等の指図を預金者の代わりに銀行に対して伝達することおよび㋑預金者の銀行口座に係る残高や利用履歴等の情報を銀行から取得し、これを預金者に提供することについては、電子決済等代行業者(以下「電代業者」という)が登録により営むことができる。サービスを提供する前に、銀行との間で当該サービス提供に関して所定の事項を含む契約を締結することで営業が可能となる。㋐の事例として、「複数の振込先への銀行振込の依頼をワンクリックで行うことができるサービス」、㋑の事例として「預金口座の残高や利用履歴等の情報を銀行から取得・集計し、自動的に家計簿を作成するサービス」などが考えられる。

なお、クレジットカードや電子マネー(銀行プリペイドカードを除く)を利用する者に対してのみ、㋐㋑のようなサービスを提供する場合には、電代業者の登録は不要である。

3.カード決済取引に係る法律のポイント

(1)割賦販売法
①規制対象範囲について

カード等の証票を発行しなくても、顧客識別番号などで、二月を超える後払いを認める場合も該当する。また、あらかじめ番号等を交付せず、個別に二月を超える後払いや分割払いを認める場合は、自己の商品等の販売であるときを除き、「個別信用購入あっせん」に該当し、取引条件等の表示や書面交付義務、民事ルールの適用がある点に留意する必要がある。

なお、デジタル財布、モバイル財布、スマートフォンアプリ、QRコードを使った決済手段を提供する場合であって、特定の包括信用購入あっせん業者と提携し、その取り扱いができる販売業者・サービス業者を自ら選択し、契約を行う場合には、「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」に該当し、経済産業省への登録義務が生じていることに留意する必要がある。

②クレジットカード番号等取扱契約締結事業者

「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」とは、カード会社のアクワイアリング業務を担う役割であり、クレジットカード会社のほか、決済代行会社が該当する場合がある。該当する場合は、経済産業省に登録しなければならず、そのためには、カード番号等の情報の漏えい、滅失または毀損の防止その他のクレジットカード番号等の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない。クレジットカード番号等の取扱いを一部でも委託を受けた者(二以上の段階にわたる委託を含む。)(「クレジットカード番号等取扱受託者」)も、経済産業省令で定める基準にしたがい、委託元からの必要な指導その他の措置に対応しなければならない。万一、カード会社・加盟店及びクレジットカード番号等取扱受託業者の役員・職員(退職者も含む)がその業務に関して知り得たクレジットカード番号等を自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的で、提供し、または盗用したときは、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられることになっている。

③安全管理措置

「必要な措置」については、クレジット取引セキュリティ対策協議会において策定された「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画2018」をセキュリティ対策の実務上の指針とすることとしており、包括信用購入あっせん業者、立替払取次業者及び加盟店は、実行計画に掲げられた措置を講ずるか、もしくは、それと同等以上の措置を講ずることが必要となる。

ただし、どのような規定を制定し、体制整備を図っていたとしても、結果としてカード情報などの個人情報を漏えいさせた場合は、体制不備として、経済産業省の行政処分とともに、個人情報保護委員会の行政処分を受ける可能性があることに留意する必要がある。

したがって、「クレジットカード番号等取扱業者」は、「クレジットカード番号等取扱受託業者」を含め、その従業員等のクレジットカード番号等の取扱状況を定期的に点検し、監督することが求められている。

(2)犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法では、非対面取引における取引時確認の方法の見直しが進み、新たに(図表3)の本人特定事項の確認方法が認められた。

1つは、IC運転免許証などの電子証明書データの利用であり、もう1つが、専用のスマートフォンアプリを利用した写真や動画と本人確認書類の撮影データの送信による方法である。

これらの新しい方法を採用することで従来かかっていた郵送等の手間と時間、そしてコストの削減が可能となっている。

(図表3)本人特定事項の確認方法(新たに認められている方法)

4.FinTech企業が留意したいポイント

(1)電子決済等代行業

決済業務に関連して、決済の担い手である銀行やクレジットカード会社と提携した決済指図の伝達サービスが行われるようになってきた。例えば、複数の振込先への銀行振込の依頼をワンクリックで行うことができるサービス、預金口座の残高や利用履歴等の情報を銀行から取得・集計し、自動的に家計簿を作成するサービスなどがあるが、今後これらのサービスを預金者向けに提供する場合は、銀行法に新しく規定された「電子決済等代行業者」(以下電代業者という)の登録を行い、銀行と契約をしたうえで行う必要がある。振込人登録や振込限度額変更のみを行う場合、代金決済などの目的で行う定期的な口座振替などは該当しないが、振込や振替などをインターネット画面に誘導して本人に行わせる場合であっても、電代業者に該当する場合があることに留意する必要がある。また、「銀行に預金の口座を開設している預金者の委託」がインターネットなど「電子情報処理組織を使用する方法」によるものでない場合であっても、預金口座に係る資金を移動させる為替取引を行うこと等の個々の指図を銀行に伝達する事業者が、当該指図を「電子情報処理組織を使用する方法」によって受け、かつ、当該事業者から銀行に対する個々の指図の伝達が「電子情報処理組織を使用する方法」によって行われる場合には、当該事業者の行為は電子決済等代行業に該当する。

クレジットカード会社に対する指図の伝達は、割賦販売法に規定はないが、経済産業省から2018年4月に「クレジットカードデータ利用に係るガイドライン」が公表されており、これに準拠する形でAPI連携を進める必要がある。

(2)消費者契約法の改正

2018年の改正により、2019年6月15日の施行時から、消費者契約法8条の無効となる不当条項について、その見直しと追加が行われている。また、民法も2020年4月1日から改正法が施行される。

特に、消費者契約法は以下の下線の通り、事業者の責任に関する決定権限を有する条項が無効条項として追加された。民法の定型約款とともに、サービスを運用する約款の定め方にも留意が必要である。

①事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
②事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
③消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
④消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
⑤消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵(かし)があるときに、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
⑥事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する条項
⑦消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があることにより生じた消費者の解除権を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する条項

したがって、「サービス変更、停止または終了により会員に不利益または損害が生じた場合でも、これらについて一切責任を負わないものとします」などの条項が無効なだけでなく、「当社が認めた場合を除き、損害賠償には応じない(契約の解除は認めません)」といった事項は、規定が無効となり、民法の定める基本原則通りの損害賠償義務を負うことになる。

(3)特定商取引法

特定商取引法では、サービスや商品のインターネット通信を利用した契約の勧誘と契約は、通信販売に該当する。特定商取引法では、通信販売には主に広告規制が採用されているが、最近の改正で返品制度が設けられた。販売する商品の特性等により、返品できない旨の表示をする場合は、商品説明と一緒に、もしくはサイトのわかりやすい場所に表示する必要がある。表示がない、説明が見つけにくいなどの場合は、法定の返品制度が適用される可能性がある。返品に応じない、返品に時間がかかりすぎるなどの場合には、行政処分の対象となる点に留意が必要である。

(4)景品表示法
①表示に対する規制

事業者が自己の商品やサービスを提供する際、その表示内容に留意する必要がある。表示には、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品または役務の内容または取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示が該当する。商品等に表示すべき事項が法定されている場合は、その規定に従う必要があるほか、次に掲げるものは不適正な表示として禁止されていることに留意する必要がある。表示には、商品等の説明欄に記載したものが該当するほか、サイトの他の個所、リンク先なども含めて対象になる点に留意する必要がある。不正な表示は、行政処分の対象になるほか、課徴金の制裁の対象になる。
㋐優良誤認表示
商品または役務の品質、規格等の内容について、一般消費者に対し実際のものよりも著しく優良であると示し、または事実に相違して当該事業者と同種もしくは類似の商品もしくは役務を供給している他の事業者のものよりも著しく優良であると示す表示で、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
㋑有利誤認表示
商品または役務の価格その他の取引条件について、実際のもの、または競争事業者同種もしくは類似の商品もしくは役務を供給している他の事業者のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示で、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

②不公正な取引
以下のような不公正な取引方法として公正取引委員会が定める取引方法は、禁止されており、行政処分の対象となる。
㋐不当廉売
不当に商品または役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある取引
㋑ぎまん的顧客誘引
自己の供給する商品または役務の内容または取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のものまたは競争者に係るものよりも著しく優良または有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する取引
・抱き合わせ販売
相手方に対し、不当に、商品または役務の供給にあわせて他の商品または役務を自己または自己の指定する事業者から購入させ、その他自己または自己の指定する事業者と取引するように強制すること
・排他条件付取引
不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがある取引
不公正な取引かどうかは、利用者や取引先、競業する事業者などから、寄せられる意見等が大きく影響する。疑問が生じたら、企画の段階で専門家のチェックを受けたり、相談するのがよいと考えられる。
③罰則と課徴金制度
課徴金納付命令は、優良誤認表示、有利誤認表示を対象に行われる。不当表示と判定されたとき、または不実証広告規制で不当表示と推定されると課徴金が賦課される。賦課金額の算定は、3年間を上限として対象商品・役務の売上額に3%を乗じて算出される。なお、違反事業者が相当の注意を怠ったものでないと認められるとき、課徴金額が150万円未満となる場合は、課徴金は賦課されない。

(5)利用者と加盟店の保護

代金等の支払いを「カード決済」により受ける側(商店・サービス事業者等)からすると、決済システムを提供する事業者から確実に代金が支払われることが保証されていれば、問題はない。「カード決済」の手数料率の違いや代金の精算サイクルが異なるものの、現金に代わる有力な決済手段として、受け止められている。現金を扱うことが少なくなれば、現金の管理や集計、釣銭の用意などに時間をとられず、現金のハンドリングコストを削減できることも知られるようになり、「カード決済」を通じたキャッシュレス化が進んでいるようである。

しかし、利用者サイドは、一見同じ「カード決済」であっても、カードの選択とそれに伴うわずかなオペレーションの違いにより、取引の実解釈と決済機関との契約内容に基づく法的な規制の差と保護レベルの差が生じている。また、決済の受け手側である加盟店も、決済の安全性を確保するために、法的な義務を負担することがある。

消費者の利便性、既存金融サービス提供機関の取り組まないニッチ分野を開拓して、新しいサービスを提供する場合、あらゆる法律を調査し、確認し、法律のどのような規制を受ける可能性があるのかを正しく認識してサービスを開始する必要がある。

以後の事業展開に大きな影響が考えられる場合は、あらかじめ解決策を確実に実施する必要がある。事業展開に影響が軽微と考えられる問題は、開業準備とともに、解決することになろうが、真実軽微なのかどうかは、経験豊富な専門家の意見を聞くなどして、問題を軽視せずに進めることが肝要である。

5.今後の見通し

現在、金融庁では、金融審議会 金融制度スタディ・グループにおいて、為替(送金)、融資、決済、保険を対象に現在の業態別法規制から、同一業務に同一ルールを適用するとの基本的な方針の下、横断的法規制の検討が始まっている。

決済分野に限れば、プリペイドカードのような事前にプールした資金からの支払(前払い)、デビットカードのような預金口座からの支払(即時決済)、クレジットカードのような立替を経由しての後払いの異なった方式であっても、加盟店側からすると、電子的な方法で決済が完了し、決済機関から一定期間後に自銀行口座に入金されるという仕組みをほぼ同一のオペレーションで完了することから、決済前後のルールを統一することに違和感はないだろう。

しかし、決済機関と決済システム利用者との間には、異なる法律関係が存在する。これを共通化するには、特に利用者保護の厚いクレジットカード取引を見直す必要がある。その原因は、割賦販売法の規制にある。したがって、割賦販売法の消費者保護規制のない2カ月以内の後払い、(これは現行法上規制のないマンスリークリア方式のクレジットカードと同じであるが)を対象に、プリペイドカード、デビットカードと利用上のルールを共通化することが考えられよう。このような見直しに対し、利用者保護が実質的に後退するとの懸念が表明される可能性があるが、海外で国際ブランドが適用しているチャージバック制度を国内でも共通して導入するなど、商品の未納やサービスの未提供に対する利用者保護を図ることでほぼ解決するのではないかと考えられる。

なお、割賦販売法では平成28年の改正により、加盟店に対する立替金の引き渡しを担保するために設けられていた営業保証金制度が廃止された。割賦販売法においては、最低資本金制度が導入されており、登録制度の下に財務健全性が確保されているため、営業保証金制度は、すでに実質的な役目を終えていたから、問題はなかった。しかし、スマートフォン決済、ECモールでの決済、QRコードによる海外事業者の決済を仲介する決済代行業者が多数乱立しており、法規制が及ばない事業者も存在する。かつて、小規模であったが、決済代行会社が倒産し、加盟店は、カード会社から決済代行会社に支払われた立替金の資金の引き渡しを受けることができなかったことがある。当時と比較して、決済代行会社の種類や数は、大幅に増加しており、海外の決済機関と提携している決済代行会社も大幅に増加している。競争の激化や地政学リスク、不正利用などを原因として、経営が悪化することも考えられ、利用者保護とともに、加盟店保護も検討の俎上に上がる可能性がある。

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