国内の決済サービス、セキュリティ対策の動向を紹介

支払いツールとして、さらなる浸透が鍵に

国内において、2018 年はかつてないほどキャッシュレス決済が盛り上がりをみせた1 年だった。2019 年以降は、この流れをブームで終わらせないように、その支払い手段を根付かせていく必要があるだろう。総論では、国内のペイメントサービスの動向について概観する。

QR/バーコード決済が乱立
電子地域通貨への活用も

政府発表の民間最終消費支出に占めるキャッシュレス化比率の公表数値において、日本のキャッシュレス化比率は諸外国より低い2割程度とされている。そんな中、2017年に発表された内閣府の「未来投資戦略2017」では、2027年までに国内のキャッシュレス比率40%を目指すとした。また、2018年4月には、経済産業省から「キャッシュレス・ビジョン」が発表。未来投資戦略のキャッシュレス化比率40%の目標を2025年と2年間前倒しし、将来的に80%を目指すとした。さらに、業界横断組織として「キャッシュレス推進協議会」が2018年7月に立ち上がった。

ペイメントサービスでは、三本の矢として、前払いの「プリペイド」、即時払いの「デビット」、後払いの「クレジット」に分類される。国内のキャッシュレス化の動向をみると、最も利用されているのはクレジットだが、近年ではデビットやプリペイドサービスを展開する発行会社も増えている。各支払い手段の市場動向については、「第5章 国内のキャッシュレス・ビジョン最前線」を参考にしてもらいたい。また、リアルでの支払い時のインターフェースとして、磁気、接触IC、非接触IC、QR/ バーコード、生体認証などが挙げられる。

インターフェースの動向をみると、2018年以降は“QR/バーコード決済サービス”が話題をさらった。QR/バーコード決済サービスでは、中国のモバイル決済サービス「Alipay(支付宝)」、「WeChat Pay(微信支付)」への対応が数年前から大手加盟店や観光地などで行われていたが、国内企業も積極的に参入。NTTドコモの「d払い」、LINE Payの「LINE Pay」、PayPayの「PayPay」、楽天の「楽天ペイ(アプリ決済)」、Amazonの「Amazon Pay」、Origamiの「Origami Pay」、pringの「pring」などの汎用的サービスが登場している。多くの事業者が、利用者の拡大に向け積極的なキャンペーンを展開。20%還元で話題となったPayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」はその最たる例だろう。

2019 年2 月20 日には、みずほフィナンシャルグループが地方銀行など60 行の預金口座と連携したスマホ決済サービス「J-Coin Pay」を提供すると発表

KDDI は、2019 年2 月12 日に記者説明会を開催し、スマホ決済サービス「au Pay」等を含め、スマートフォンで金融サービスを強化すると発表。KDDI では、楽天やメルペイと連携

QR/バーコード決済サービスには、POSに接続したバーコードスキャナーやタブレットのカメラで利用者のQRコードやバーコードを読み取って支払いを行うタイプがまず1つある。国内のQR/バーコード決済が登場した当初、タブレットを用いたシステムを中心にQR/バーコード決済サービスのアクワイアリングが行われていたが、最近ではPOSの大手加盟店向けに複数の決済手段をとりまとめるスイッチングサービスを展開する企業も登場している。すでに、コンビニエンスストア大手のファミリーマート、ユーシーシーフードサービスシステムズ(UFS)の主力業態の上島珈琲店などでは、数多くのQR/バーコード決済サービスを導入している。

また、QRコードを印刷したPOPをレジなどに設置し、利用者がそのQRコードを読み取ることで支払いを行うタイプも登場しており、中小規模の加盟店にとっては、決済端末の設備投資を抑えることができる。さらに、LINE Payは2021年7月末まで限定で、通常2.45%必要な決済手数料を条件つきで無料、PayPayも2021年9月30日まで無料としている。

Origamiでは、銀行やクレジットカード会社との連携を強化するとともに、同社の金融サービスプラットフォームを幅広い企業に広く解放する「提携Pay」を提供している。「提携Pay」では、Origami提供のSDK(ソフトウェア・デベロップメント・キット)をパートナー企業が自社アプリなどに組み込むことで、当該アプリのユーザーがOrigamiの加盟店ネットワークや支払い手段を活用して決済を行えるサービスだ。

銀行でもQR/バーコード決済の展開に力を入れる。GMOペイメントゲートウェイでは、「銀行Pay」(旧称:銀行口座と連動したスマホ決済サービス)の基盤システムを提供。同基盤システムを横浜銀行、ふくおかフィナンシャルグループ(福岡銀行・熊本銀行・親和銀行)、りそなグループ3行(りそな銀行・埼玉りそな銀行・近畿大阪銀行)、 ゆうちょ銀行、沖縄銀行、ほくほくフィナンシャルグループ(北海道銀行・北陸銀行)に提供している。

QR・バーコード決済の状況

さらに、BASE子会社のPAYでは、情報処理センターを介すことなく決済サービスと銀行口座直結でQRコードの即時支払いが可能になる更新系APIにおいて、住信SBIネット銀行と連携した。また、エムティーアイの「&Pay」も更新系APIを利用しており、常陽銀行と連携し、北洋銀行とはキャッシュレス実証実験を展開している。

そのほか、岐阜県飛騨・高山地域の「さるぼぼコイン」、木更津市の「アクアコイン」といった電子地域通貨の展開もQR/バーコード決済サービスで展開されている。さらに、近鉄グループホールディングスの「ハルカスコイン」では、ブロックチェーンを活用した電子地域通貨を2度にわたってテストし、実用化に向けた動きを進めている。

なお、乱立するQR/バーコード決済の規格を整理する動きも進んでいる。ジェーシービー(JCB)は、キャッシュレス推進協議会の規格に準拠したQRコード・バーコード決済スキームである「Smart Code」の提供を、今春より開始すると発表した。

「iD」と「QUICPay」を事業者が活用
国際ブランドのコンタクトレス決済に注目

なお、支払いのインターフェースとして、2019年は非接触決済サービスがより注目を集めることになりそうだ。ポストペイ(後払い)電子マネーの「iD」「QUICPay」については、日本の「Apple Pay」で同技術が採用されたため、認知度の向上、登録者の増加につながっている。iDやQUICPayはプリペイドカード等に対応するなど、サービスの裾野も拡大しており、利用箇所も増えている。

メルペイは、フリマアプリ「メルカリ」において、2019年2月13日よりスマホ決済サービス「メルペイ」をiOS先行で提供開始したが、三井住友カードとの事業連携を通じ、iDに対応した。また、LINE Payでは、決済・送金サービス「LINE Pay」において、JCBと連携することで、QUICPayによる支払いを追加している。非接触決済は、かざすだけで直感的に利用できるため、アプリを立ち上げることが必要なQR/バーコード決済サービスよりも使いやすいという声もある。

また、2019年以降、インターフェースとして注目したいのが、国際ブランドが提供するTypeA/Bベースの決済手段だろう。国内では、日本マクドナルド、ローソン、TSUTAYAなど、利用できる店舗が徐々に拡大。また、イシュアのカード搭載も進んできた。さらに、国内では、三井住友銀行の「SMBCデビット」、イオン銀行の「イオンカードセレクト」などがTypeA/BとFeliCaに対応したカードとなり、「iD」や「WAON」といったサービスとの使い分けも行われると予想される。

ローソンは、店内ならどこでも決済が可能になるセルフ決済サービス「ローソンスマホペイ」の導入店舗を、2019 年2 月22 日より近畿・中国・九州エリアに、3 月1 日より北海道・東北・中部エリアに拡大。Apple Pay、クレジットカード、「 LINE Pay 」、楽天ID を活用した「 楽天ペイ(アプリ決済) 」といった手段が可能

ビザ・ワールドワイド・ジャパンと三井住友カードは、日本で初めてのVisa 非接触IC 決済サービス「Visa のタッチ決済」に対応した「リストバンド型プリペイドカード」を発行し、消費者向けに提供

Mastercard と三越伊勢丹は、2018 年11 月7 日~ 2019 年6 月30 日まで、 伊勢丹新宿店にて、「 伊勢丹新宿店ノーサイドプロジェクト限定企画 ラグビーワールドカップ2019 マスターカード プレゼントキャンペーン」を実施している

デビットカードは成長途上
電子マネー事業者は新たな展開

各支払い種別の動向をみると、引き続きデビットカードの発行イシュアは年々広がりをみせている。デビットカードは、加盟店での決済時に金融機関の預金口座を照会し、即時に引き落とすサービスとなる。国内では、日本電子決済推進機構が各種ルールを設定した「J-Debit」のほかに、ペイメントカードの国際ブランドが提供する「ブランドデビット」が存在する。

日本電子決済推進機構は、2017年4月1日に施行された銀行法施行規則改正に伴う規制緩和を受けて、J-Debit「キャッシュアウトサービス」のシステム開発や運用ルール作りを実施している。また、ブランドデビットは、VisaやMastercard、JCBの加盟店網を利用し、世界中の加盟店で利用できるのが第一の優位点。さらに、カード発行時は、原則として審査・与信がなく、クレジットカードを持てない若年層、高齢者なども所有できる。

デビットカードは、カードタイプに加え、モバイルを活用した取り組みとの連携も期待される。FeliCaベースの決済のほかに、QR/バーコードを活用したカードレスの展開も増えてくると思われる。

サーバ管理型のプリペイドカード(ハウス電子マネー)は、オンライン上のサーバでバリューを管理し、金額をチャージ(入金)する仕組みとなる。近年では、中小企業が自社独自の「ハウス電子マネー」として発行を強化するケースが目立つ。さらに、コンビニエンスストアやドラッグストア、家電量販店などでは、「ギフトカードモール」を展開している。

国際ブランドを付帯したブランドプリペイドカードの発行も行われている。この分野は、リアルカードに加え、インターネット限定のカードも目立つ。また、ゆうちょ銀行と日本郵便は、Visaプリペイドカード「mijica」を展開しているが、プリペイド残高が不足した場合に、あらかじめ指定したゆうちょ銀行の総合口座から即時に、不足額を自動的にチャージ(デビットチャージ)する口座振替決済機能が追加された。

非接触電子マネーの動きをみると、楽天の「楽天Edy」、セブン&アイ・ホールディングスの「nanaco」、イオンの「WAON」、「Suica」等の交通系電子マネーが提供されている。新たな動きとして、「WAON」では、京都や北海道といったエリアにおいて、路線バスでの決済サービスの展開を行っている。地域エコシステムとして機能をさらに拡充できるかが注目される。

主要電子マネーの現状

クレジット決済市場も堅調に成長
ネット決済では後払いが伸長

話題性としては、QR/バーコード決済に押されがちだが、もちろん日本でもクレジットカードが利用できる加盟店は年々拡大している。また、各カード会社とも稼働率アップの取り組みを強化しており、クレジットカードの取扱額も増加している。クレジットカード決済に関しては、コンビニエンスストアやドラッグストアなどにおける少額決済の増加、これまで現金払いが多かった家賃、公金、医療、教育などでの支払いが伸びている。さらに、インターネット決済における取扱額の増加も大きいだろう。

それに加え、日本クレジット協会の発表には含まれていないが、日本を訪れる外国人旅行者は年々増えており、百貨店や観光地など、国内の消費が活性化していることも挙げられる。特にアジアの国々からの旅行者が大幅に伸びており、この傾向は継続している。

インターネット決済市場も年々、拡大している。ここ数年は、「後払い」決済の導入企業が増加。利用者が実際に商品を受け取ってから支払いが可能な点、事業者が立替払いを行うためEC加盟店への入金が保証される点などにより、アパレルなどの物販サイトを中心に導入企業が加速している。後払いでは、今回紹介した神戸レタスの「のんびり後払い」、「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」運営のZOZO(旧スタートトゥデイ)が展開する「ツケ払い」をはじめ、長期後払いに取り組む企業も増えている。

また、大手モール事業者では、ID決済を展開。数千万人のユーザーを有しているサイトも多く、その会員をそのまま送客可能。さらに、クレジットカード番号等を入力する必要なく、IDとパスワードのみで支払いが行える点も特徴となっている。「楽天ペイ(旧楽天ID決済)」(オンライン決済)は「楽天スーパーポイント」、「Yahoo!ウォレット」は「Tポイント」、「リクルートかんたん支払い」は「Pontaポイント」といった汎用性の高いポイントが付与されるメリットも魅力となっている。さらに、大手キャリアが展開するキャリア決済は物販での利用も伸長している。

クレジットカード情報保護対策は実行フェーズへ
コンビニではP2PEによる運用も

カード決済のセキュリティ対策として、クレジット取引セキュリティ対策協議会(協議会)は、2020年に向けて国際水準のクレジットカード取引のセキュリティ環境を整備するため、クレジットカード会社や加盟店をはじめとする各主体が講ずべき措置を取りまとめた「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画」を策定している。実行計画では、(1) クレジットカード情報保護対策、(2) 対面取引における不正利用対策(偽造カード防止対策)、クレジットカード偽造防止による不正利用対策、(3)非対面取引における不正利用対策(なりすまし防止対策)の3本柱に分けられる。

そのうち、クレジットカード情報保護対策では、2018年3月末までに、カード情報の漏えい頻度が高い非対面(EC)加盟店について、原則として非保持化を推進し、仮に保持する場合はPCI DSS準拠を求めた。また、対面加盟店に関しては2020年3月までを期限としている。さらに、カード情報を保持する必要性のあるカード会社(イシュア・アクワイアラ)および PSP(決済代行事業者等)については PCI DSS 準拠を求めている。

実行計画では、要件を満たした決済専用端末やタブレット端末を活用した外回り方式の導入により「非保持」、PCI P2PE認定ソリューションを導入、もしくは協議会において取りまとめた技術要件に適合するセキュリティ基準(11項目)を満たせば、内回り方式でも非保持と同等/相当と認められる。なお、PCI P2PE認定ソリューションは、PCI DSS同様にPCI SSCが管理している基準だ。 たとえば、セブン&アイ・ホールディングスでは、クレジットカード情報の非保持化(PCI P2PEソリューション準拠)をセブン‐イレブンより開始している。

現在、実行計画策定から3年以上経過しているが、クレジットカード情報保護に関しては、各事業主体共に実行フェーズに入っている状況だ。また、PCI DSSや非保持化に対応している加盟店、PCI DSSに準拠しているカード会社やPSPに対し、そのセキュリティ対策を維持・運用する点が重要であるとしている。

日本クレジット協会では、加盟店へのIC 対応に向けた周知活動にも力を入れる。消費者がIC 対応加盟店であることを認識・識別できるよう、IC 対応済みであることを示す「共通シンボルマーク」・「IC 対応デザイン」を策定

EC 加盟店に関しては、PCI DSS 準拠済みの PSP が提供するカード情報の非通過型(「リダイレクト(リンク)型」もしくは「JavaScript を使用した非通過型」)の決済システムの導入を促進している。Java Script を使用した決済は、多くの決済代行事業者が提供を開始しているように、サービスの裾野も広がってきた。

クレジットカードの偽造防止対策に関しては、クレジットカードおよび加盟店の決済端末のIC対応100%実現という明確な目標がある。実行計画2018では、加盟店の決済システムのIC対応に向けた取り組みとして、特定業界向けのIC対応指針の策定が挙げられる。ガソリンスタンドに関しては、フルサービススタンドでの車内精算など日本固有の商慣習、セルフスタンドでの給油機一体型の自動精算機、その他防爆準拠(消防法等)の課題があるため、2020年時点でのIC対応における実現可能な方策を示した「国内ガソリンスタンドにおける IC クレジットカード取引対応指針」が取りまとめられた。

また、駐車場、鉄道、ガソリンスタンドなど、国内で広く普及しているオートローディング方式の自動精算機については、国際的なセキュリティ基準である「PCI PTS」に準拠することが技術的に難しいことから、代替コントロール事例を示す「オートローディング式自動精算機のIC化対応指針と自動精算機の本人確認方法について」が取りまとめられた。

さらに、2017年に策定された接触型IC取引を対象とした「ICカード対応POSガイドライン」に加え、2018年は「非接触EMV対応POSガイドライン」が策定された。

非対面取引における不正利用対策に関しては、EC における不正使用対策については、カード会社(アクワイアラ)および PSP は、不正使用対策が脆弱なEC加盟店のうち、不正使用の対象となるリスクが高い「カード番号+有効期限」のみで決済を行い、本人認証技術等の不正使用対策を講じていない加盟店に対して、多面的・重層的な不正対策を行うように働きかけるとしている。

また、実行計画が策定された当初は「ECにおけるなりすまし対策」だったが、法令との平仄を合わせて、「実行計画2018」からは、いわゆる「MO・TO(メールオーダー・テレフォンオーダー)」など、インターネット以外の通信手段による通信販売事業者も対象となるように明記されている。

ポイントサービスでは共通ポイントがしのぎを削る

昨今では「Tポイント」や「Ponta」、「楽天ポイントカード」、「dポイント」、「WAON POINT」といった共通ポイントの展開もあり、大規模な会員組織を持つ企業が外部に会員基盤を拡大させる動きが見受けられる。

また、共通ポイントに加え、大手家電、百貨店、CVS、ドラッグストアなどが発行するカードも大規模な会員数を誇る。流通業における顧客サービスの変遷をみると、1960年代からポイントの先駆けとなるサービスが紙で登場し、1980年代後半になると百貨店を中心に顧客の囲い込みの観点でカードが発行されるようになった。1989年には、ヨドバシカメラがポイントカードの発行を開始。1990年代の後半からはスーパーやコンビニエンスストアなどが顧客を特定する会員サービスを開始している。近年では、モバイルを活用した取り組み、決済との連動も見受けられる。

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