好調な通販・EC市場は 約8兆円市場に成長 スマホの浸透でQRコード決済など “キャッシュレス戦国時代”へ

通販・EC市場は20年連続で伸張を続けており、2018年度の業界売上高は8兆1,800億円まで拡大した。独走するアマゾンを先頭にネット通販の勢いが強く、BtoB企業の躍進なども貢献して安定成長につながった。スマホの普及によりSNSや動画を利用したプロモーションが一層加速し、顧客基盤拡大を狙う企業による越境ECも引き続き活性化した。決済サービスではさまざまな企業がスマホを活用した支払い手法を導入し、まさに“キャッシュレス戦国時代”の様相を呈している。

通販研究所 渡辺友絵

売上高が20年連続で拡大するも伸び率は前年下回る

(公社)日本通信販売協会(JADMA)によって毎年8月に発表される通販・EC業界の売上高(物販)を見ると、最新となる2018年度は前年度比8.3%増の8兆1,800億円(会員企業455社に有力非会員337社を加算)と拡大した(図1)。20年連続での成長となり、金額ベースでは6,300億円の増加だったが、伸び率は前年度に比べて0.5ポイント下回った。直近の売上高は2020年1月に発表された業界紙2紙による数値で、「日本流通産業新聞」が前年比6.6%増の8兆3,638億円(売上高は上位500社合計・増減率は比較可能な208社での算出数値)、「通販新聞」が同5.6%増の7兆6,844億円(上位300社)となっている。ただ、売上高が伸びた一方で、いずれの調査でも前年に比べて伸び率は下回る結果となった。全体的な伸び率の鈍化については、配送料大幅値上げの影響による販促費用の抑制などが考えられる。

図1 通販・EC 業界の売上高(物販)

独走のアマゾンに続きBtoBやテレビ通販、オムニチャネル企業などに勢い

日本流通産業新聞の売上高ランキング(図2)をみると、独走を続けるアマゾンの売上高は1兆5,350億円と2位に大きく差をつけ、業界トップの存在感を一層強めている。アマゾンを別格とすると、オフィス向けのBtoB通販を手がけるアスクルやミスミグループ本社、大塚商会、MonotaROの伸びが著しく、ベスト10にランクインしている。大手テレビ通販企業にも勢いが見られ、ジャパネットホールディングスやジュピターショップチャンネル、QVCジャパンが上位に連なっている。中でも家電系で消費増税前の駆け込み消費をつかんだとしているジャパネットホールディングスは、前の期に続き2,000億円超えを達成し、今後もさらなる成長が見込めそうだ。15位以内にはランクインしていないものの、ネットと実店舗を連動させるオムニチャネルを実践するユニクロとニトリも、30%前後の増加という大幅増収を果たしている。

図2 2019 年売上高ランキング

その一方で、カタログなど紙媒体を主流としていた総合系通販は概ね減収が続き、前年並みのベルーナを除くと大幅減収が止まらない。13位のディノス・セシールは前年比5.2%減、20位の千趣会は同16.5%減、42位のニッセンは同62.8%減と落ち込んでいる。日本生活協同組合連合会やフェリシモ、カタログハウスも減収だった。

ECモールや衣料・雑貨系の有店舗企業が躍進し、大規模M&Aも加速

大手総合通販各社が苦戦する背景には、アマゾンや楽天市場、ZOZOTOWNなど大手ECモールの躍進がある。これらECモールは豊富な資金やインフラを生かし、中でもECの主戦場ともいえるファッション分野でのシェア拡大を狙う。

楽天は、1,100を超えるブランドが参加するファッションモール「楽天ブランドアベニュー」のサイト名を「楽天ファッション」に変更し、ファッションECの新構想を打ち出した。ファッションに知見のある専門家の意見を取り入れ、プラットフォーム運営に反映させながらファッション分野の強化につなげる狙いだ。アマゾンはNTTドコモと組み、ドコモ携帯の特定料金プラン契約者が有料会員制度「Amazonプライム」に無料加入できる特典提供に着手。有料会員の裾野拡大を狙う考えでいる。アマゾンや楽天にECで大きく水をあけられていたヤフーは、ZOZOTOWNを運営するZOZOを2019年9月に買収し、新設の「PayPayモール」を立ち上げた。出店者を大手および優良ショップに絞り3%のロイヤリティが発生する仮想モールで、ZOZOTOWNやグループの決済アプリ「PayPay」の利用客を取り込む計画でいる。「PayPay」はテレビCMを活用した大規模なキャッシュバックキャンペーンなどを通じ、利用者の拡大に本腰を入れている。「PayPayモール」には「ZOZOTOWN」に出店するおよそ1,100のショップがすでに参加したとされ、今後の展開に注目が集まる。

楽天の動画配信サービス

ファッション・衣料品系ではマガシークやベイクルーズ、アダストリアなどのEC企業やECモールも好調で、ファッション感度が高い20~30代の顧客層を取り込んでいる。マガシークのように、アウトレット品を扱うサイトを既存のプロパーサイトに統合し、一次流通と二次流通を連動させる動きもある。ユニクロやニトリをはじめ、丸井やユナイテッドアローズ、良品計画など衣料品や雑貨の実店舗を展開する企業は、店舗とECを連動させるオムニチャネル化が奏功し、軒並み増収となった。ユナイテッドアローズはEC依存度が高かったZOZOTOWNと距離を置き、自社サイトの強化に軸足を移し始めている。ヤフーのZOZO買収は業界に衝撃を与えたが、EC市場の成熟化に伴い今後もさまざまな変化が起こりそうだ。

世界中を圧巻するインターネットサービス企業「GAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)」に抱く脅威を背景に加速する国内EC業界の大型M&Aは、ヤフーのZOZO買収だけではない。ヤフーの親会社であるZホールディングス(ZHD)とLINEは、今秋をメドに経営統合を行う。ヤフーが手がけるネット検索やEC、LINEのメッセンジャーアプリなどのサービスは国内ユーザーの大半が利用しているため、統合の相乗効果によってさらなるシェア拡大が見込めることになる。それぞれが「PayPay」と「LINEPay」というスマホ決済サービスも展開しているため競合関係にもあるが、今後どのように展開していくのかが注目される。

フリマアプリ「メルカリ」を手がけるメルカリグループのメルペイも2020年1月、スマホ決済の草分け的企業であるOrigamiを傘下に入れると発表した。一定の周知期間を経た後に、Origamiの「Origami Pay」サービス・ブランドを自社のスマホ決済サービス「メルペイ」に統合する。「Origami Pay」と資本業務提携している信金中央金庫が有する全国のネットワークを通じ、地域中小事業者のキャッシュレス化を推進。「メルペイ」を活用した地域イベントや、メルカリの使い方を学ぶ「メルカリ教室」の運営、利用促進キャンペーンなどを展開していく。

ZHDとLINEは公正取引委員会など関連当局からの審査も経たうえで、2020年10月を目途に経営統合を完了させたい意向だが、公正取引委員会は昨年から大手IT企業を対象に規制強化を進めている。アマゾンや楽天、ヤフーなど、大手ECモール運営も手がけるいわゆる「デジタル・プラットフォーマー」による市場独占を防ぐための規制で、事業取引条件の透明化や個人データの保護、企業買収審査の見直しなどが柱となる。政府は新たな法案を2020年の通常国会に提出するとみられ、新法案はプラットフォーマーだけでなく出店者のEC事業者にも影響を及ぼす可能性がある。

テクノロジーの進化は物流や配送、サイト接客やライブ販促へ拡大

テクノロジーの進化は、物流や配送、サイト接客、ライブ販促などECにかかわる各分野でも急速に広がりつつある。かねてより物流倉庫にAIを積極的に導入しているファーストリテイリングでは、2019年秋に新たなピッキンギグロボットを開発。ユニクロをはじめ多品種の自社アパレル商品に対応可能な3Dビジョンを搭載し、形状が柔らかく種類が豊富なアパレル商品でも柔軟で正確にピッキングできるようになった。国内外の物流拠点において、今後数年程度で自動化を実現させるという。これまでも新たな配送・受取サービスを展開してきた楽天は西友と連携し、自動走行ロボットが西友店舗から近くの公園にいる顧客に商品を無人配送する実証実験を行っている。

アスクルはBtoBサービスの「アスクル」などにおいて、顧客の問い合わせにテキストベースのチャット形式で回答するAIの機能を2019年からさらにバージョンアップした。注文データとの連携ができるようし、領収書発行や請求書再発行、注文キャンセル、配送状況確認、配送日変更への対応が可能となった。個人向けサービスの「ロハコ」にも別のチャット用AIを導入しており、夜間や休日でも対応することで顧客サービス向上につなげる。家具・雑貨を扱うニトリはソフトバンクとの協業で、EC機能を持つ「ニトリアプリ」にAIを活用した商品画像検索ツールを導入した。顧客が求める商品画像やスクリーンショットをアプリで読み込むと、ニトリの店舗やECサイトにある同じ商品や類似商品をAIが自動検索し、顧客はそのまま購入することができる。

ここ数年勢いが増すソーシャルネットワークサービス(SNS)分野では、視覚的なインパクトと双方向性があるライブコマースの活用が広がった。昨年はメルカリが「メルカリチャンネル」の終了を発表し先行きに不透明感が漂ったライブコマースたが、巨大市場の中国では成功事例として挙がっているため、試行錯誤段階ではあるものの前向きな動きが続く。

楽天はライブコマース機能を実装した動画配信サービス「楽天ライブ」を2019年5月に開始し、動画による商品売買を始めた。アーティストやタレント、一般ユーザーが配信するライブ動画に、視聴者がコメントなどをリアルタイムで送ることが可能で、双方向のコミュニケーションがとれる。視聴者はアプリ内から販売サイトにアクセスし、動画を見ながら配信中に紹介される商品を購入できる。商品の強みを双方向で視聴者に訴求し、効果的な販促につなげるという。KDDIと動画サイト運営のエブリーが共同開発したライブコマースアプリ「チェック」も、モデルやインスタグラムの人気インフルエンサー、各社バイヤーなどを起用しEC事業者と連携してライブコマースを展開する。ロフトや東急ハンズなどの有店舗企業と協業し、専門チャンネルを開設。テーマやカテゴリーに沿った商品紹介や、販売会やイベント会場からのライブ配信といった取り組みを行う。

ライブコマースの波は、若年層を含む新規顧客の開拓を狙う老舗百貨店にも拡大している。三越伊勢丹は2019年8~11月にかけ、催事を通じてさまざまなライブコマースを行った。伊勢丹新宿店で開いたファッションイベントのインスタライブを「伊勢丹オンラインストア」で配信し、動画を見ながら商品購入もできるようにした。英国の食品・食材や雑貨などを展示・販売する恒例の「英国展」の初日も、新宿店の公式インスタグラムでバイヤーや出店者がさまざまな商品を紹介。ライブ動画は、配信日以降の「英国展」来場者数増加につながったとしている。さらに、国立博物館とコラボした初の「歳暮ライブコマース」を三越日本橋店で実施し、国立博物館所蔵の作品画像をパッケージに使った菓子などのギフト商品を紹介。販売員とリアルタイムで質問や会話をしながら購入できる仕組みで、三越と伊勢丹のオンラインストアなどでライブ配信した。

引き続き中国越境ECは伸張、「独身の日」はライブ配信が増えより活況に

経済産業省が2019年5月に発表した「平成30年度電子商取引に関する市場調査」によれば、中国における2018年の越境 EC 市場規模は前年比5.9%増の6兆2,900億円で、2021 年には8兆1,600億円まで拡大する見込みだ。国別の構成比で見ると、中国の越境 ECによる日本からの商品仕入額は全体の約 21.5%と引き続きトップに位置している。商品類別では、化粧品類が1位で全体の約 35.9%を占め、2位と3 位はそれぞれ、食品(24.2%)、衣類・靴類(13.3%)となっている。越境ECで中国の人が直近 1 年以内に購入した日本製品については、トップが「基礎化粧品」の46.9%で、「メイクアップ化粧品」(46.1%)、「食品」(43.5%)、「マンガ・アニメ」(43.2%)、「フェイスケア用品」(37.8%)、「衣料品・ファッション」(33.7%)と続いた。

毎年11月11日に中国で開催されるアリババグループの「独身の日」セールの売上高は年々伸びていて、2019年はわずか1日で過去最高の2,680億人民元(約4兆1,600億円)を達成した。伸び率も前年比25.7%増の大幅増となった。11回目の今回は中国と世界各国から過去最多の20万以上のブランドが参加し、100万点もの新商品が販売されたという。この日を盛り上げるために多くのセレブやインフルエンサーが登場して注目度を高め、出店ブランドの約半数がライブ配信を活用して商品を販売した。昨今の中国越境ECでインフルエンサーへの信頼度は依然として高く、SNSやイベントなどのライブ配信で積極的に起用されている。スマホの普及もあって中国国内では越境ECへの関心が年々高まり、都市部だけでなく地方からの購入も増えている。

「独身の日」には日本からもユニクロや花王など多くの事業者が参加していて、中でも化粧品や美容関連用品、健康食品、衛生用品、フィギュア、アニメやゲームのキャラクターグッズなどが人気を集めた。中国では2019年1月に国内EC市場の管理規制を強化する「電子商務法」が施行され、関税逃れ目的の大量個人転売を厳しく取り締まるようになった。そのため個人による越境ECは減少したが、正規な形での企業によるECにはプラスに動いたとみられる。

加熱するスマホアプリ決済は包括的金融サービスの入り口になる可能性も

2019年は、非接触型ICやQRコードなどのスマホアプリを使った電子マネー事業に各社が次々と参入し、まさに“キャッシュシュレス戦国時代”ともいえる様相を呈した年だった。電子マネーは素早く支払え便利な一方で、チャージ方法や利用店舗がそれぞれ異なるという使いにくさもあり、多くのユーザーはまだ様子見状態のようだ。そのような状況下、2019年10月からの消費税アップに伴い導入された「最高5%還元」など政府主導のキャッシュレス推進施策は、企業にとって追い風といえよう。ただ、利用者は若年層に偏りがみられるうえ、キャッシュレス手法では引き続きクレジットカードが6割超を占めるという状態が続く。今後、スマホアプリ決済などのキャッシュレス市場は、さらに激戦になると予想される。

その電子マネー市場で大胆なキャンペーン展開でばく進しているのが、ソフトバンクグループの率いるスマホ決済「PayPay」だ。参入時と2019年に「100億円あげちゃうキャンペーン」を実施したのに続き、2020年早々には全国6,500以上の対象店舗での支払いを「PayPay」残高で行うと40%が還元されるキャンペーンにも着手。3月にはスーパーマーケットを対象とした還元キャンペーンも実施する予定という。直近のPayPayユーザー数は2,300万人を突破し、昨年12月単月の決済回数が初の1億回超えになるとも発表した。同グループのZHDと経営統合するLINEが手がける「LINE Pay」との共同展開などについては、まだ検討段階とみられる。

「全国6,500 店舗以上の有名飲食チェーンで『40%戻ってくる』キャンペーン」

QRコードなどを用いるスマホ決済のアプリでは「PayPay」をはじめ、 「LINE Pay」 、楽天ペイメントの「楽天ペイ(アプリ決済)」 、NTTドコモの「d払い」 、Origamiの「Origami Pay」などがよく知られている。2019年夏にはセブン&アイが「セブンPay」 、ファミリーマート が「FamiPay」の提供を始めたが、リリース後わずか数日で「セブンPay」の不正利用が発覚した。第三者が不正アクセスし本人になりすまして決済したもので、被害人数は約900人、被害金額は約5,500万円にのぼった。周囲からシステムの脆弱さや個人情報の重要性に対する自覚のなさが厳しく指摘され、開始から3カ月で終了に追い込まれるなど、参入相次ぐスマホ決済業界が冷や水を浴びせられた出来事だった。

ファミリーマートは「FamiPay(ファミペイ)」の利用促進に力を入れる

人気の既存スマホ決済では、機能的なバージョンアップも相次いだ。「楽天Pay」は「おサイフケータイ」を搭載した端末で「楽天Edy」も統合的に利用できるようにし、効率的に楽天ポイントが貯まるようになった。電子マネーを個人間で送り合える機能も加え、友だち同士の送金や楽天グループのフリマアプリ「ラクマ」の売上金の送金もできるようにした。「PayPay」もユーザーインタフェースをリニューアルし、送金に関する機能を強化。アプリのトップ画面に「送る」「受け取る」などのアイコンを表示し、PayPay残高の送金や受け取りが簡単にできるように刷新した。

スマホ決済を提供する各社は機能のバージョンアップなどを通じ、楽天が手中にしている“楽天経済圏”のように、決済という手段をフックにクレジットカードや銀行、投資などの金融サービスを包括的に提供していく構想を進めているとみられる。現に「PayPay」は、2020年度中に「個人向けローン」や「ビジネスローン」、「後払い(リボ)」、「投資」などの金融サービスに参入すると表明した。これら金融サービスはPayPayアプリ内の「ミニアプリ」として実装する予定で、すでに一部サービスの開発に着手。自社開発にこだわらず、他の金融機関のサービスも連携して利用できるようにしていく模様だ。マルチパートナー戦略として、ユーザーが複数のサービスを手にできるようにするという。フィンテックが加速する現状において、決済は支払い手段にとどまらず、小売りや金融サービスへの重要な入り口になっていく可能性がある。

銀行系でも、みずほフィナンシャルグループや三菱UFJ フィナンシャルグループが独自のデジタル通貨を2020年にも発行し普及に取り組む計画でいる。日本円の価値と連動し電子マネーのように使える仕組みで、利用者はスマホ専用アプリのQRコードなどを用いて買い物の決済などに利用できる。また、銀行からのチャージや払い戻し、利用者間の送金手数料も無料となるという。管理コストや手数料など従来のクレジットカードやプリペイドカード、電子マネーなどが有する課題解決を目指した新たな決済手法として、加盟店にも消費者にも大きなメリットをもたらすとしている。

経済産業省の「キャッシュレス・ビジョン」では、2019年時点でのキャッシュレス決済率は約2割にとどまるものの、2025年までに4割へと引き上げたいとしている。今後もスマホを軸にさまざまな決済手法が進むと思われるが、2020年のオリンピック・パラリンピックや2025年の大阪万博に向け、各社がどのような施策を講じていくのかに注目したい。

ページ上部へ戻る