2021年3月9日
距離別運賃の路線バスでQRコード決済の実証実験
地元企業とタッグを組んでキャッシュレス化の推進を図る
上田バスは、上田市が官民連携のもとに行うQR決済システムを活用した公共交通キャッシュレス化の実証実験に参加。地元、長野県のシステム開発会社、和晃のQR決済システムを活用し、菅平高原線の運賃支払いにキャッシュレス決済を導入した。距離別運賃を採用しているバス路線でのQRコード決済は、全国初の試み。同地域では上田電鉄でも実証実験を開始する予定だ。
運賃支払いにQRコード決済を導入
低コストでキャッシュレス化を実現
長野県上田市では、市内公共交通機関の運賃支払いにキャッシュレス決済を導入するための「市公共交通キャッシュレス化推進プロジェクト」に、官民一体で取り組んでいる。この第一弾として、2020年10月1日から2021年3月末まで、上田バスの菅平高原線において、キャッシュレス運賃支払いの実証実験を行っている。
首都圏、近畿圏をはじめ、全国の都市圏ではすでに何年も前から交通系ICカードが普及し、公共交通機関の運賃支払いのキャッシュレス化が進んでいる。地方都市である上田市でもかなり前から運賃のキャッシュレス払い導入の意向はあったが、ネックになっていたのはコスト。
「ICカードは、イニシャルコストはもとより、維持管理費の負担が大きすぎるとの判断から導入を見合わせていました。そこにタイミング良く実証実験の話があったので、一も二もなく参加させていただくことに決めたのです」(上田バス 運輸部高速乗合担当 課長 伊藤俊樹氏)
実証実験で使われたのは、長野県埴科郡坂城町のシステム開発会社、和晃が開発したQR決済システムだ。これに対応する端末を、菅平高原線を運行するバス10台に設置。専用アプリを使用し、乗客がバスを乗り降りする際にスマホに表示されたQRコードを端末にかざして決済を行う仕組みとした。
菅平高原線では距離別運賃が採用されている。均一運賃であれば乗車時もしくは降車時に一度、QRコードをかざすだけで運賃支払いを完了できるが、距離別運賃では乗車口と降車口の二手に端末を設置し、乗車時と降車時の二度、端末にQRコードをかざす必要がある。とはいえアプリによるキャッシュレス決済は、現金決済に比べて短時間で済み便利だと、乗客も評価している。またアプリでは、GPS機能によって、リアルタイムにバスの位置を確認できる。
キャッシュレス決済は、乗務員にとっても利用価値が高い。現金支払いの場合、投入金額は料金箱に表示されるものの、その確認は乗務員が目検で行わなければならず、両替対応などの手間も発生するが、キャッシュレス決済ではこれらの負担を軽減できる。
上田バスでは車内広告や地元メディアへのプレスリリースなどによって、QRコード決済の導入を告知。認知促進、利用拡大に力を入れている。
実験終了後もキャッシュレス決済は継続
プリペイドなどにも活用を拡大
和晃が今回提供した決済システムは、PayPay、LINE Pay、メルペイ、au PAYといった国内QRコード決済のほか、Apple Pay、Google Payや、国際ブランドのクレジットカードなどにも対応している。
和晃は今回の実証実験を発展させており、順次、機能の拡充に取り組んでいる。1つは、定期券・回数券をアプリからも買える・使えるようにすること。上田バスはもともと、5,000円でプリペイドカードを買うと5,500円分使えるといった実質1割引きのサービスを提供していた。これまで対面の窓口のみで販売していたこのプリペイドカードを、2020年12月にはアプリからも購入できるようにした。
もう1つは、スマホがなくても紙のQRコードでアプリ同様の機能を利用できるようにすること。例えば「紙のプリペイドカードを発行し、1日フリーパスのようなかたちで観光客などに販売することを想定しています」と和晃 代表取締役 宮嶋晃氏は話す。
アプリの利用に当たっては、スマホの電話番号と生年月日のみの登録を求めているが、4月以降に予定している定期券の発行については、住所や勤務先など、より詳細な個人情報の取得が必要となる。属性データと行動データの掛け合わせにより、バスの混み具合や使われ方を可視化できるようになるなど、マーケティングツールとしての活用も広がる。
同地域では2021年から上田電鉄が同様の実証実験を開始する予定であり、交通乗車のキャッシュレス化の動きがにわかに活発化しそうだ。また、「今後、公共交通だけでなく、公共施設でも使用可能になります」と宮嶋氏は語った。